#dce8a7_リーフ・クローニン_3月20日(12歳)_-cm -型_ミヤビナ王国片田舎_-_神経質で勤勉な少年。万年2位ポジ、凡庸な自分にコンプレックスを抱いている。マドレーヌが発端のトラブルによく巻き込まれる。なにかと不憫。王立ミヤビナ学園中等部1年生。,
#fac397_マドレーヌ・キマグレーナ・モンダイジュ_7月7日(12歳)_-cm -型_ミヤビナ王国首都_-_おっとりした天才肌の少女。牛人族(ぎゅうじんぞく)の血を濃く引いている。リーフを振り回し楽しんでいる傍迷惑な人物。王立ミヤビナ学園中等部1年生。,
#fee97a_サン・ライト・ジュンケッシュ_6月21日(15歳)_-cm -型_ミヤビナ王国首都_-_王立ミヤビナ学園高等部1年生。準備中。,
#fe8cd0_ベラ・ガーランド_4月18日(16歳)_-cm -型_ミヤビナ王国近郊_-_王立ミヤビナ学園高等部1年生。準備中。
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眼鏡とフリル
おちゃらけティータイム
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2024.02.14
ガリ勉少年と猛牛少女が繰り広げる恋と裏切りのドタバタラブコメディ。
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「せっかく転生したんだ。この学園で僕がいちばんになってやる!」■b■■b■ 大志を口にした少年の瞳は希望に満ち溢れキラキラと輝いていた。きっちりと留められた襟元のボタン、左右に流し整えられた前髪、指紋一つない銀縁眼鏡、いかにも生真面目そうな装いだ。そんな優等生を絵に描いたような少年は何故か制服を泥まみれにしていた――■b■■b■「まあ、こんなところにお布団が? どうして泥水の上に?」■b■「君のせいだろ! 僕の背中から降りろ」■b■■b■ 頭上の女は行く先々で現れてはプチ不幸をもたらしていた。全て僕に。災厄の主はこちらをまじまじと見つめるばかりで覚えてもいない様子だ。■b■■b■「人間でしたのね?」■b■■b■ 嘘だ。わざとに違いない。しかもなんだその失礼極まりない発言は。むかっ腹が立つ。■b■■b■「……聞こえなかったか? 関心している暇があるならさっさと尻をどけろ!」■b■「ごめんなさい、つい見とれてしまいましたの。朝から何度もお見かけしたものですから」■b■■b■ やっぱり覚えているんじゃないか。怒声も何のその、件の女は謝りながらも、水溜まりで突っ伏す僕の背に、悠々と腰を下ろしたままだ。なぜ降りない。クスクス、クスクス、通り過ぎる生徒たちの控えめな笑い声が聞こえる。前回なんて大笑いされてしまった。度重なる屈辱的な状況にさらに腹が立ってきた。肩の震えも止まらない。いちど灸を据えてやるべきだろう。■b■■b■「このっ「もしかして! わたくしたちなにかご縁があるのかしら?」■b■■b■ …………は?■b■■b■「きっとそうね。許嫁でもない初対面の殿方とこんなに触れ合うなんて……きっと運命なんだわ!」■b■■b■■b■■b■「は?」■b■■b■ 渾身の罵詈雑言を遮ったあげく、意味不明なことを言い出した。聞き間違いだろうか。赤く染まった頬を両手で覆いながらキャーキャーと一人騒ぐ女、こいつは何と言った?ご縁?運命?悪縁に違いないしそんなバッドエンド一直線な怪しい繋がりは即刻スパッと断ち切るべきだ。それよりも重大で深刻なワードが混じっていた気がする。■b■ おもむろに立ち上がった人物を観察してみる。手入れの行き届いたペッシュ色大振りな巻き髪に、転生モノらしくはあるがこの地域では珍しい、亜人特有のツノを生やした頭。お嬢様口調、改造されたド派手な制服。ちなみにここは貴族の子息子女が多く通う王立学園である。慣例やしきたりを重んじる頭の凝り固まったお貴族様と言えば定番の……考えたくもない。■b■■b■「わたくし待ってますから」■b■「は?」■b■■b■ カアカア、カアカアカア、カラスの鳴き声だけが聞こえる。何羽過ぎ去っていたのだろうか……呆ける僕の視線の先、テンポ良く揺れるフリルは小さくなっていた。
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少年の野望
おちゃらけティータイム
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2024.02.15
ガリ勉少年と猛牛少女が繰り広げる恋と裏切りのドタバタラブコメディ。
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「入学早々、散々だ……」■b■■b■ 前世の僕が何をしたというのか?■b■■b■ 抹茶色の髪、切れ長のツリ目に収まる同色の瞳、整ってはいるが華やかさの足りない顔立ち、そんな地味な容姿をしたリーフ・クローニンという名の少年それが僕。早い話、転生した元日本人だ。純粋な日本人からするとやや彫りの深い造形も、多民族国家と思しき現環境下では、凡庸な印象を覚える。魔法は使えるが年相応の実力、チート能力も有していない。性格にいたっては、他人曰く高圧的かつ意地を張りがちで無愛想、とっつきにくい最低な奴らしい。残念スペック過ぎる。■b■ それだけあって、キラキラアメリカンドリームな勝ち組英雄人生は早々に諦め、現実に堅実に向き合うことにした。文官のような事務職を極めよう。なんて地味な転生モノだろう。モブのモブによるモブのための転生譚、どの層が読みたがるんだこんな話。■b■■b■「はあ……」■b■■b■ 気が滅入ってきた。自虐が過ぎる。雑踏の中、溜め息を咎める者などいない。田舎出身おのぼりさんな僕は中等部への外進生として入学した。既存の仲間はおらず、かといって、前述通りな性格により作れもしなかった……ほっとけ。■b■ 知己との再会を喜ぶ者、登校を共にしてきたと思われる者、敵意を向け合う者、皆が誰かしらと顔馴染みのようにさえ見える。完全アウェーな空気感にさらに気が重くなる。■b■■b■ パンッ。開いた両手で挟むように叩いた頬がヒリヒリと痛む。■b■■b■ 王立ミヤビナ学園。生まれてから約12年、貴族の子息や子女が占めるこの学園でいちばんになるのが今の僕の目標なのだ。目標?▼いや▲否、庶民から選出される貴重な特待生枠を勝ち取った者の一人として、散っていった敗者の努力を無下にしてはいけない、それは勝者の責務でもある。絶対に実現させなければ。■b■■b■「それなのに……」■b■■b■ 掲示板の前で肩をガックリと落としてしまった。先日、理解度調査の名目で行われたテスト、その順位表が貼り付けられているのだ。■b■■b■「ありえない……ありえない…………」■b■■b■ 何度目になるだろうか?心の嘆きが口から漏れる。大勢の生徒が集まるこの場所で、なぜか僕の周りだけ異様に空間が空いている気もするがそれどころではない。■b■■b■ 特待生の資格を維持するには、実技とペーパーいずれも、全てのテストで90点以上を取る必要がある。とはいえ先日のものは予習を兼ねた腕試しともいえる難易度であり、よほど低い点数を取らない限り、資格剥奪は免責されていた。まさか、さっそくやらかしたのか?そうではない。入学初めてのテストにして条件は満たしていた。問題は別の所。■b■■b■「なんで……なんで、この僕がいちばんじゃないんだっ!?」■b■■b■ プライドの問題だ。僕はこの学園で結果を残さないといけない。ここにいる全ての人に負けを認めさせるくらいの結果を。なんせ庶民の代表を背負っているのだから。■b■■b■ この国の階級格差はひどいものだ。蛙の子は蛙、下流階級から優秀なこどもが生まれるわけがないというのが一般常識なのだ。平民の子は才能の存在を否定され、加えて貧しさからまともに教育を受けられない。教育格差と言い換えても良い。肉体労働をするかしがない稼ぎの商人になるか、職業選択の自由さえないに等しいのだから。出自によって将来の可能性すら奪われる、不平等ここに極まれり、あんまりじゃないか。■b■ 僕はそんな風潮を打破したくてこの学園に入った。王国随一の名門校でありながら庶民に特待生制度を設けているこの王立ミヤビナ学園に。輝かしい成績を上げ、地味ながらも良い職に就き根底から社会を変えてやるのだ。■b■■b■ その野望は早くも潰えようとしていた。■b■■b■「僕の1個上……お前のせいで!」■b■■b■ 膝を屈した元凶、順位表の最上段そこには丸がたくさん並んでいた。全教科の総合点、ほとんどがまばらな数値のソレと氏名の組み合わせが並ぶ中、一箇所だけおかしな列がある。■b■■b■「ねえ見て、すごい点数よ」 「8教科あったわよね」 「まさか――」■b■■b■■b■■b■■b■■b■■b■「全教科満点なんて認めないぞ!!!」■b■「まあ? 頑固なお方」■b■■b■柔らかく落ち着きのある女性の声。■b■顔を下げると、眼前に、憎たらしいあの女が佇んでいた。
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地雷娘
おちゃらけティータイム
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2024.02.20
ガリ勉少年と猛牛少女が繰り広げる恋と裏切りのドタバタラブコメディ。
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何が楽しいのか?女は小馬鹿にしたような笑顔で見つめてきていた。あいかわらず嫌味なやつだ。■b■■b■「お前……コホン、君は昨日の性悪女じゃないか。何の用だ?」■b■「本音が隠れていませんよ? わたくし粗相なんてしたかしら?」■b■「とぼけるな!▼ じょうろ▲如雨露の水をかけるわ、人を敷物扱いするわ、登校初日から赤の他人であるはずのお前が僕にしてきた数々の暴挙を忘れたなんてありえない!故意でなきゃとんだ世間知らずだ!」■b■「……まあ?」■b■■b■ つい声を荒らげてしまった。数分前よりも増えたギャラリーがざわめいている気がする。事情を知らない衆目には、逆上した庶民が、お貴族様に難癖をつけいてるようにしか映らないだろう。華麗な中学生デビューのはずが、早くも印象最悪だ。正直しくじったと思う。■b■ 件のお貴族様といえば、怒りも泣きもせず、神妙な面持ちで沈黙を続けている。さすがに自覚はあったのかもしれない。反省してつっかかってこなくなれば御の字だ。他の生徒を巻き込んで悪質なイジメに発展させる可能性もあるが、そんな天性のイジメっ子気質ではないことを祈ろう。■b■■b■「わたくし、知らず知らず、あなたにご迷惑をおかけしていたのですね。謝りますわ。ごめんなさい」■b■■b■ そうそう。急にしおらしくなったその変わりように気味の悪さも感じるが、謙虚な姿勢は美しいものだ。■b■■b■「このままじゃ嫌われてしまいますよね……」■b■■b■ 既に嫌いだが、今後、関わりがなければ赤の他人、良くて学友までリセットされるだろう。そうなれば僕の学園生活も安泰だ。御の字御の字♪ 鼻歌を歌いたくなってきた。期待通りの良い流れじゃないか。■b■■b■「だから――」■b■■b■ 女は目を閉じると、覚悟を胸に刻みつけるように、深く息を吸い込んだ。■b■■b■■b■■b■「――がんばろうと思いますの!」■b■■b■ そうそう、そうそう、良い目つきだ。お互い穏やかな関係で卒業できるようがんばってくれ。ふんふんふん♪ 話も終わったことだしさっさと立ち去るか。■b■ すっかり上機嫌になった僕は玄関の方角へ向き直った。そうだ、順位表の結果に落ち込んでいる場合じゃない。今回は負けたがまだ1回目。オール100点なんてマグレに違いない。猛勉強すればきっと次のテストで取り返せる。■b■■b■「良い心がけだな。じゃあ……」■b■「はい! 全力で、あなたのことを知る努力をしますわ!」■b■「なんでそうなる!?!?」■b■■b■ 女がまた突拍子のないことを言い出した。■b■■b■「わたくしよく世間知らずと言われますの……なにごとも段階を踏むことが大事、そうおっしゃっているのですよね? わかりました。そのためには、この逸る気持ちを抑え、信頼を地道に築いていかなくてはなりません。もっともっとアタックして、まずはお友達になってみせますわ!」■b■「いやいやいや求めてないから!? 金輪際関わらないでくれるだけでいいから!」■b■■b■「あなたが謙虚な恥ずかしがり屋さんなのはわかっていますわ。多くの生徒が初等部からの顔馴染が占める中では孤独を感じることもあるでしょう。ほんとうはお友達を増やしたい、親睦を深めたい、同じ志を持った学友とともに切磋琢磨したい。その願いを叶えるべく奮起するあなたを微力ながらお支えしたいと思いますの」■b■「謙虚じゃないし恥じらってもいないし交友関係を広めたいとも思ってないから!? なんにもわかってないから! 今の話の流れでどうしたらそんな発想になるんだ!?」■b■■b■「それは……」■b■■b■■b■■b■「“恋”ですから。きゃっ♪」■b■「“故意”だって!?」■b■■b■ 嘘だと言ってくれ。最悪のケースじゃないか。■b■ 床を向いたり正面を向いたり、こちらの顔色を伺うように忙しなく動く女の目と目がかち合う。そらされた。反して野次馬たちと目が合う。咎めているのだろうか?僕を射るような視線に思わず身じろいでしまう。女の爆弾発言以降ざわめきが大きくなった気がする。妙に深刻な、いつ爆発してもおかしくない雰囲気だ。まずい。理由は分からないが、どう考えたってまずい。■b■■b■ キーンコーンカーンコーン。■b■■b■ タイミングが良いのか悪いのか、授業開始5分前の予鈴が鳴った。■b■■b■「わたくし、諦めが悪いともよく言われるんですの。約束はぜったいに守りますから。覚悟しておいてくださいまし♪」■b■■b■ 急降下する僕の気分と反比例して上機嫌になった女は言葉尻を弾ます。衆人環視の中で放たれたソレは死刑宣告のようだった。■b■■b■■b■■b■■b■■b■■b■ 我に返った頃には誰もいなくなっていた。行く先々で突然現れては、哄笑や喧噪で、周囲を爆発させる。殺戮兵器みたいな女だ。■b■■b■「勘弁してくれよ……地雷娘」■b■■b■ キーンコーンカーンコーンと二度目の予鈴が鳴る。これから僕は二度目の人生にして初めて遅刻を経験するのだろう。動きの鈍い両足を叱咤する。それでも教室へ向かう足取りは重く感じた。
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ガリ勉とふざけた女
おちゃらけティータイム
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2024.02.27
ガリ勉少年と猛牛少女が繰り広げる恋と裏切りのドタバタラブコメディ。
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レースのカーテン越しに射し込む陽の光がまどろみを誘う。いつも通り昼食後の自主勉強に励む僕は眉根を寄せていた。眠気に襲われて……なんてことはなく、隣に座る女生徒のせいで。他クラスのそいつは昼休みに入るなり襲来し、窓際、長机の端に座る僕の真横を陣取った。教室を出た生徒も少なくない、座席はいくらでも空いていたというのに。■b■■b■「聞きたいことは山ほどあるがまあいい。ひとつだけ答えてくれ、そのふざけた格好はなんだ?」■b■■b■ 正直こちらから話しかけるのも癪だが、無言で凝視され続けては、監視されているようで気が散る。弁当を食べている間もこの状態だったのだ。嫌がらせの類に違いない。付き合っていられるか。テキトーにあしらって隣の迷惑者にはさっさとお帰りいただこう。■b■■b■「見ての通りですわ。さあ、お当てになって!」■b■■b■ イラッときた。とことん底意地の悪い女だ。嬉々とした表情と珍妙な服装が相まって以前の倍、憎たらしく見える。■b■■b■「まずはこっちの質問に答えるのがふつうだろ!? ……ふん、まあいい。聖なる学舎でマンドラゴラなんかに扮してきたお嬢様がまともなわけがない。聞いた僕が馬鹿だったな。ファッションショーを開きたいならお友達とやってくれ。君の高尚な趣味を理解しようにも凡人の僕には難解すぎる。これで用は済んだだろ? 帰ってくれ」■b■■b■ ほら帰れ、シッシッとジェスチャーも加えてやる。たとえくるくるぱーのお嬢様だとしても皮肉くらい分かるだろう。怒るか泣くか、どちらにせよ騒ぎ立て醜態を晒すようなら見ものだな。■b■■b■「……」■b■■b■ 形成逆転、ここぞとばかりに半開きの目で凝視してやったが、微動だにしない。無言で去るパターンか?イマイチすっきりしないがまあ良しとしよう。苦行から開放されるに越したことはないのだ。先日の仕返しを出来ないのは惜しいが。■b■■b■「…………」■b■■b■ それにしてもよく押し黙る女だな。■b■ ノート上を走らせていた筆を止め、チラリ横目で隣を伺う。へのへのもへじみたいな間抜け面が見えた。優雅さの欠片もない、本当にこの学園の生徒なのだろうか?■b■ 教鞭を執るのは一流の講師陣、全分野ありとあらゆる教材の完備された校舎、豪奢な学生寮にいたっては貴族の従者も同伴可能だ。伊達に巨額の財を投じられただけでなく、各界の著名人を多数輩出してもいる。“ミヤビナ”――この国での語源は知らないが、日本語なら上品で洗練された様子を表す形容動詞――それを冠するに相応しい学園といえる。そんな学園の生徒がコレだなんて……認めたくない。■b■ 上下関係に重きを置く貴族らしく無駄に礼儀正しいのも校風の一つだが、コレがコレならコレの友人もさぞかしコレなんだろう。信じられない。信じたくないのが本音だ。■b■■b■「……わたくし……が……んの」■b■■b■静かに敵意の炎を燃やす僕をよそに、女はブツブツ言い始めた。呪文だろうか?まさかの逆恨みパターン?不気味だ。■b■■b■「話があるならハッキリ言え」■b■■b■ そしてとっとと帰れ。言外に含める。■b■■b■■b■■b■「しっ――ませんの」■b■■b■ 一拍、間が空いた。■b■■b■「何が?」■b■■b■■b■■b■女が大きく、焦れったいくらいにゆっくり、ゆっくりと、息を吸う。
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無神経
おちゃらけティータイム
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2024.02.28
ガリ勉少年と猛牛少女が繰り広げる恋と裏切りのドタバタラブコメディ。
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「わたくしっ」■b■■b■■b■■b■「友だちがっ」■b■■b■■b■■b■■b■■b■■b■「いませんのっ!!!!!」■b■■b■■b■■b■■b■■b■■b■「…………………………………………あ、やっぱり?」■b■■b■ 教室の角どころか廊下まで響いたかもしれない大絶叫。間近で大声を出され顔を顰めかけたが、その不快感さえ、衝撃的な内容を理解するやいなや吹っ飛んでいった。思わず納得してしまったのだ。■b■ 先ほど叫んでいた女は、落ち着かないのか肩を揺らし、手遊びをしている。時折単語を漏らす顔は俯き表情まで読み取れないが、尖った耳は真っ赤だ。嘘とは思えない。やはりコイツだけか、名誉が守られて良かったなミヤビナ学園よ。我が母校となる場所がキチガイの巣窟とならなくて本当に、本当に良かった。■b■■b■「コホンッ……どうりで距離感がおかしいわけだ。他人を孤独だのなんだの決めつけてきていた張本人が一匹狼だなんて、ジョークでも笑えないな。恋愛脳、話は一方的、見当違いのお節介、そんな性格じゃあ除け者にされるのも当然だろう」■b■「それは……その……」■b■「自分の世話もままならない人間がズケズケと。助けて欲しいなんて僕が言ったか?言ってないよな? こっちの話なんて聞いてすらいないんだから。無神経にもほどがあるだろ?」■b■■b■ モゴモゴと口籠る眼前の女生徒を睨みつつ畳み掛ける。大事な昼食兼復習タイムを妨げたあげく、己の将来を危機的状況に陥らせかけてくるとは。油断ならない。地雷女め。胸中で罵れば罵るほど怒りが膨れ上がっていく。きっと女がギャフンと言うまで収まらないだろう。容赦はしない。■b■ 強い口調で語る様子は、まるで詰問だ。静寂に包まれた教室内に緊張感が漂う。ヤジこそ飛んで来ないが、四方八方から突き刺してくる視線に若干居心地の悪さを感じる。否、どうだっていい。傍観者共が。女生徒が勝手に付き纏ってきているだけで、僕から彼女へ話しかけたことなど一度もない。極端に言えばストーカーじゃないか。非難される謂れは皆無。自分たちを正当化したいなら、まずは僕らの状態を公平にするべきだろう?■b■■b■「ふんっ。ぐうの音も出ないか?連日、名前さえ知らない人間から執拗に追い回されて、うんざりしているんだ。遊んでいても将来有望な君と違って特待生は何かと忙しい、睡眠だってまともに取れてないんだ。友達ごっこをしたいんならどうぞご自由に、だが僕を巻き込まないでくれ」■b■■b■「これでまだ分からないっていうのなら、人付き合いする前に、自身の行動を反省する時間が必要だな。それが終わったらかまってあげるよ」■b■■b■ 無理だろうがな。■b■ 以前黙したままの女から視線を外し、教科書を捲る。一枚、また一枚と捲っていく。きっと去ったのだろう。予鈴が鳴っても再び話し声が聞こえてくることはなかった。
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早一週間
おちゃらけティータイム
更新
2024.03.20
ガリ勉少年と猛牛少女が繰り広げる恋と裏切りのドタバタラブコメディ。
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地雷女が出没しなくなってから早一週間、僕は平和を謳歌していた。昼休み、もはや定位置となった長机の端、空の弁当箱を片付け代わりとばかりに数冊書籍を積み上げる。流れるような動作でノートと教科書も開く。こうして教科書とにらめっこしていても邪魔をされることはない。メモを取る手も止まらない。■b■ ■b■ 「くあぁ……はー、眠……」■b■ ■b■ あまりの快適さにあくびが出てしまった。快適で、快適で……睡眠時間が不足しているからなのだが。数日前まではもっと短かったのだ。お邪魔虫のせいで。日中の遅れを取り戻すべく深夜の勉強量を増やした。案の定、目の下には青い隈がデフォルトに。校門や街頭にぶつかったり教師を母と呼んでしまったり、どれも地味な出来事ではあるが恥ずかしかった。■b■ その場にいなくとも関わっただけで不幸をもたらす、まるで厄病神じゃないか。どんだけだよ。改めて考えてみると、本当にとんでもない奴に目を付けられてしまったものだ。今はどうしているのだろうか?■b■ ■b■ ■b■ ■b■ 「………………ハッ!? いやいやいや、そんなこと微塵も思ってないから!」■b■ ■b■ 生徒たちが一斉に振り向いた。視線の集中砲火にもさすがに慣れてき……無理だ。ぎこちなく窓を向く。頼むから気にしないでくれ。■b■ ■b■ 「え、えっふ! ゴホンゴホン」■b■ ■b■ 下手くそな演技で誤魔化してみる。うまくいった。うん、そーいうことにしとけ。■b■ さあ勉強の続きをしようと時計を確認すれば、授業の開始時刻が迫っていた。余計なことを考えてしまったばかりに。完全に寝不足だな。ああ、次の授業はなんだったっけ?■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ 「えー新入生の諸君、本日から対魔法生物訓練を始める。授業とはいえ油断していると怪我をすることもある。心して臨んでくれ」■b■ ■b■ 次の授業は、5限目から放課後まで約3時間続く、屋外での実習だったようだ。あちこちで歓声が上がる。貴族といえどもここにいるのはまだ子供、未知への恐怖心よりも好奇心が勝るのだ。ふだんはお行儀良く静かに授業を受けている生徒たちも、仏頂面はどこへやら、目を見開き鼻息を荒らげている。そんな間抜け面を眺め嘲笑う人間がいることにも、きっと気付いていないだろう。■b■ ■b■ カチャカチャ、カチャ、カチャチャチャチャチャチャチャチャ……■b■ ■b■ 僕が眼鏡のブリッジを揺らす音にも気付かないくらいなんだから。ふふんっ。いけ好かなかったが、奴らもまだまだガキだな。そう思えば、少しだけ気持ちがスカッとした。■b■ ■b■ 「おーい、聞こえてるか?最後列左端、眼鏡の少年よ?」■b■ 「フフフ…………ふ!? は!? ははははいっ僕ですか!?もちろん聞こえて! ええっと、えー……」■b■ ■b■ 「………………スミマセン、もう一度お願いします」■b■ 「待ちきれないのは分かるが、遠足気分は事故の元だぞ。ちゃんと集中しろよー?」■b■ 「ハイ、ズビマセン……ぐす」
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初めての合同授業
おちゃらけティータイム
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2024.03.30
ガリ勉少年と猛牛少女が繰り広げる恋と裏切りのドタバタラブコメディ。
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最悪の気分だ。羞恥で火照った顔全体を隠すように額に被せた右手の平、眼鏡フレームが邪魔をして覆いきれてはいない、その下方に見える地面を睨みつける。今朝までの解放感はもののみごとに霧散してしまった。ぜんぶ、ぜんぶあの女のせいに違いない!次に会ったらただじゃおかないからな……あ!?ないから。次とか絶対無いから。神は神でもこちとら他力本願仏教徒、今入信した、厄病神信仰への勧誘はノーセンキュー、どうか僕の知らない所で成仏してくれ南無南無。■b■ ■b■ 「あはは、なんかブツブツ言ってるとこ申し訳ないけど、このプリント受け取ってもらえないかな?まあ、さっきのは災難だったね。気持ちは分かるよ」■b■ ■b■ 軽やかでサラッとしたベリーショートの白髪を困ったように掻く少年がいた。慌ててプリントを貰う。受け取っちゃったよ。かみ……。■b■ ■b■ 「ああ、スマン。さっきのは忘れてくれ。君は同じグループの、クラスは……一緒ではないよな?」■b■ 「うん、1組。内進生だけど気軽にビンセントって呼んで。訓練とかなんかワクワクするよね。それに他クラスとの合同授業なんて新鮮でさ、実は俺もちょっと緊張してる。そっちは2組のリーフ・クローニン君だろ?有名人に会えて嬉しいよ! リーフって呼んでいいかな?」■b■ 「有名人って……ハァ」■b■ ■b■ 開かれたままの手の平とともに自身の名前までやってきた。まさか初対面それも他クラスの人間にまで名前が知れ渡っているだなんて。これからはさきほどの醜態も語り継がれてしまうんだろう。悪名を轟かせたかったわけじゃない。僕の意思に反して現実は理想の学園生活からどんどん遠ざかっている気がする。入学してからまだひと月も経っていないというのに。■b■ ■b■ 「……僕は庶民だ。敬称も許諾も要らない、好きに呼んでくれ。運動神経には自信がないんだ、足を引っ張らないようにがんばるよ。これからよろしく」■b■ ■b■ 教師によってランダムに選ばれた訓練仲間、形式的に握手を返す。自分は敬称にこだわらないだのなんだのと文句を言っていた、それについては無視をする。彼は名字まで名乗らなかったが聞いたところでどうせ分からない、ただ、内進生――内部進学生――といえば貴族だけなのだ。気まぐれな彼彼女らの口約束は破られて当然。信用など出来るものか。■b■ ■b■ 「先生の説明によると連携が重要なんだったな。ビンセント君の魔法適性を教えてくれないか?僕は補助魔法が向いているみたいだ」■b■ ■b■ ホント地味。魔法適性は数日前の授業で知った。この地味な己にピッタリな地味系補助魔法というやつは、補助、その名の通りサポートに長けた属性だ。攻守一体な五大属性の火・水・土・風・雷、いくら地味な僕といえども、いずれかだと期待していた。甘かった。フラグと言うやつだろうか?おまけ属性とさえ揶揄されているハズレ中のハズレを引いてしまうなんて。僕には運もないのか。トホホ……。■b■ ■b■ 「へえ、いーじゃん補助魔法! たしか、能力強化とか治癒とか出来るんだよね? 縁の下の力持ちじゃん! 俺は風属性。風って単体だと目に見えないんだよね。ゴオオオって、バチバチィって、ハデな火属性や雷属性が良かったな〜」■b■ ■b■ 擬音語の多さが些か気になったものの、さりげないフォローには嫌味の一つも感じられなかった。彼はフレンドリーな人柄のようだ。お貴族様である以上、完全に信用は出来ないが即席グループメンバーとしてはアタリの部類だろう。■b■ 入学してからまだ日が浅いとはいえ僕が貴族へ抱く印象はより悪化した。庶民と知るやいなや表情筋をフル活用し嫌悪感を露わにする者もいたからな。蔑むようなヒソヒソ声は▼あ▲彼▼ち▲方▼こ▲此▼ち▲方で。直接人の邪魔をしてくるアイツなんて特に酷い。そう、あの女。思い出すだけで癇癪を起こしそうになる。アレに絡まれていただけの僕が何故恥をかかなくてはならない?気に障るような事をしたか?あまりにも不条理だ!■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ………………ハッ!?
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合同授業開始
おちゃらけティータイム
更新
2024.04.10
ガリ勉少年と猛牛少女が繰り広げる恋と裏切りのドタバタラブコメディ。
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ビンセント以外のメンバー2名とも自己紹介を済ませプリントを一読する。疑問を投げかけたり予想を立てたり、そうこうしているうちに訓練が始まった。■b■ ■b■ 「この檻に入っているヤツらを見たことはあるか? マンドラゴラという最下級モンスターだ。ほらコレ、この小瓶! 姿は知らなくともきっとこの状態ならばピンとくるんじゃないか? 葉や茎には解毒作用、果肉には自然治癒力の向上作用、また全部位に鎮痛・疲労回復効果があり、すり潰して加工すると良薬になる」■b■ ■b■ 教師が手に掲げた薬瓶、中で鮮やかな緑色をした液体が揺れるそれにはたしかに見覚えがある。僕の地元、片田舎の農村では、栄養ドリンクとして店頭に並び、ご年配方が愛飲していた。モンスターの潜む森と遠く離れた片田舎、そんな僻地でも気軽に入手出来るだけあってもちろん希少性は低い。それくらい普及している物ということだ。モンスターを狩り依頼者からの報酬で生計を立てる冒険者、彼らとの取引が盛んな都会に住む人々ならばさらに身近な物。■b■ ■b■ 「今回は植木鉢に植え替えてあるが、マンドラゴラはふだん道端や草むら、都内下級ダンジョンから上位種の棲む森林奥地、いたるところの土に埋まっている。一見植物のようだがれっきとしたモンスターだ」■b■ ■b■ 組み立て式テーブルの上に置かれた植木鉢の中、土から飛び出た大根の葉のような物が微かに揺れる。観察し続けてみれば、呼吸のためか、葉が上下していることにも気づく。だが擬態型モンスターにしては分かりやすい方だ。周囲の景色と同化したり他の生物に化けたりするものもいるらしい。パニック系ホラー映画でよくあるやつ。騙されたベテラン冒険者パーティが仲間割れの末に捕食されたなんて話も聞いた。CG映像に過ぎなかった前世とは違い、王都の公道で搬送される冒険者を何度か目にした、作り物だと笑い飛ばすのは難しい。■b■ ■b■ 葉を掴まれマンドラゴラが大きく揺れる。抵抗しているのだろう、ポキッと簡単に折れそうな見た目に反して力強い動きだ。僕にとって今日までは噂話や知識としてしか知らなかった存在、モンスターとついに対戦出来るのか……実感とともに気分が高揚する。■b■ ■b■ 「まずはコイツを引き抜く! すかさず睡眠魔法で眠らせる! マンドラゴラが眠りについたら訓練は成功だ!」■b■ ■b■ 「その前に! お前たち、先日の授業で教えた▼こうせいしんまほう▲向精神魔法は覚えているな? 引き抜く前に必ず使用するように。マンドラゴラは地上に出ると泣き叫ぶ。端的に言って死にたくなるぞ! 自信のないやつは配布した耳栓をつけてくれ。習得難易度は高くないがまだ新入生だからな、恥ずかしがることはない」■b■ ■b■ 鳴き声への耐性は人によって異なるらしいが最悪の場合、心を病み自殺してしまうこともあるらしい。最下級だからと侮ってはいけないな。短い呪文を唱え▼こうせいしんまほう▲向精神魔法を自身にかける。個人的にしっかり復習もしただけあって難なく使用できた。■b■ ■b■ 「準備は出来たかーー? さあいくぞ!」■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ギョアアアアアア!■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ギョアアアアアアギョアアアアアアア!■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ギョア「いや、うるさいな!?!?」■b■ ■b■ 工事現場の近くを通り過ぎた時くらいのすごい騒音だ。▼こうせいしんまほう▲向精神魔法は、魔法なんて大層な名を戴いているが、しょせん気分を盛り上げる効果しかない。素で聴こうものならメンタル以前に鼓膜が殺られるわっ。■b■ ■b■ 「“スリープ”!!!」■b■ ■b■ ギョアッ?■b■ ■b■ 呪文をかけられたマンドラゴラが一瞬動きを止めた。■b■ ■b■ ギョアア……ギョアあああ……あぁ……スピスピスピョピョピョ■b■ ■b■ 「よし、こんな感じだ! 体調が悪くなった者はいないか?無理せず一度休みなさい。そうでない生徒諸君はさっそく取りかかってくれ! 分からないことはグループメンバーと相談するように」■b■ ■b■ 生徒たちが一斉に駆け出す。植木鉢を受け取ると急ぎ足で各自の机へ持ち運ぶ。失態については一度忘れ、僕も課題に専念しよう。冷静を装い受け取りの列に並ぶことにした。
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田舎者
おちゃらけティータイム
更新
2025.04.09
ガリ勉少年と猛牛少女が繰り広げる恋と裏切りのドタバタラブコメディ。
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「ビンセントくんってさ、したた……いや、なんだその……もしかして成績良い?」■b■ ■b■ 「え?ぜんぜん! この前のテスト、掲示板見た? 中間くらいだったっしょ? あ、そんなとこ印象に残らないか!?アハハ」■b■ ■b■ 賑やかな奴だなあ……強かと評価する気でいたが、とても賢いようには見えない。じゃあ何故質問を? というのも、マンドラゴラを扱う彼の行動が気になったのだ。■b■ マンドラゴラが放つ騒音に生徒たちが苦悩するなか、彼は真っ先に耳栓をした。それも教師の実演前に。机に戻るや否や、鼻歌まじりの詠唱で自身とマンドラゴラに魔法をかけると、大根みたいな体を素早く引っこ抜いてしまった。あまりにも手際が良い。■b■ ■b■ ……貴族臭い。そうでないのなら森育ちの野生児だがそんなとんでも設定めったにお目にかかれない。魔物出没区域への未成年単独立ち入りは禁止されているのだ。たとえ大人であっても、戦闘に不慣れな平民は入らないのがふつうで、冒険者を雇い護衛してもらう。ありがちなのは家庭教師や狩り、仕事への同伴、なんらかの形で実戦経験を積んだに違いない。いずれにせよ金が掛かる。生まれながらにして不平等だなあ……。■b■ ■b■ 「顔が怖いよリーフ!?親の仇を見つけた歴戦の猛者みたいな表情だよ!?」■b■ ■b■ どんな表情だよ…………ハァ。■b■ ■b■ 「ま、学年全体で2位! 熾烈なトップ争いしてるお前が知ってたら逆にビックリだもんな〜。気にしないで! 噂で聞いたんだけどさ、ランチタイムも勉強してるってホント?」■b■ ■b■ 「いや、そういうことじゃ……ああ、まあ、予習復習は大事だからな。ところで、噂になるほどって僕、そこまで悪目立ちしてる? たしかに公衆の面前で言い争ったのは問題だろうが、一週間以上前のことじゃないか。所詮他人事だろ? 貴族社会に近いこの学校では珍しいのか?」■b■ ■b■ 「珍しいっちゃ珍しいんだけどさあ〜〜、だってあの人とだろ? そりゃみんな興味持っちゃうって」■b■ ■b■ 「あの人? ……あの人……ああー…………」■b■ ■b■ あの女か。■b■ ■b■ 「アハハ、まーた怖い顔してる。俺的には個人の自由を尊重して応援したいんだけど、世間体がキツくてさ……さすがに気をつけた方が良いと思う。お互いのためにも」■b■ ■b■ 「お互いも何も不可抗力で……今後は無いと断言するよ。もう接点も無いしな。そんなことより、ほら、僕の番がきた」■b■ ■b■ 同グループは優秀な人材が揃っていたようだ。与太話を遮るように、太ましい脚をぶらんぶらんと揺らすマンドラゴラを掴んだメンバーの一人が僕を呼びに来た。これ以上地雷女の話を広げたくなかった僕としては、ナイスタイミング! 賞賛したいくらいだ。■b■ ■b■ 依然としてビンセントは心配そうな表情をしていたが、僕も演習を終わらせなくては成績表にバッテンがついてしまう。忠告について深く考えないことにした。■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ 植木鉢がセッティングされた机の前で姿勢を正す。周りを見渡せば、手持ち無沙汰に雑談をしている多数の生徒と、回収ボックスの中で眠る大量のマンドラゴラを確認できた。非常時に対応出来るよう各グループ一人ずつ挑戦していたが、どのグループも順調のようだ。さすがに最後のメンバーまで到達しているのはうちのグループくらいか? このままいけば最速で上がれるだろう。■b■ ■b■ 「フフフ……焦るな、落ち着け僕。ふぅー…………よし!」■b■ クリアの速さを競っているわけじゃないが、ついつい気持ちが高揚してしまう。転生してから自覚した、どうやら僕は些か負けず嫌いの気があるようだ。競争心があるのは長所と捉えることも出来るが、経験上、損の方が多かった。焦りがうっかりミスに繋がり悔しい思いをすることもしばしば。■b■ ■b■ 「手順通りにすれば絶対失敗しない。まずはマンドラゴラの確認。モサモサしてるが些事だろう、問題ないな。よし次は……」■b■ だから、気づかなかった。いや、気づけなかった。平常心を保てているつもりでも、頭の隅で、駆り立てる衝動がチラついていることに。悪癖は簡単に治るものではないのだ。それも前世からとなれば尚更。■b■ ■b■ 僕が耳栓をつける直前に誰かが「あっ」と声を上げた。気にせず勢いよくマンドラゴラを引き抜いてからようやく気がついた。モサモサじゃなくてギザギザのソイツが通常個体よりもやけにドス黒い紫色をしていることに。■b■ ■b■ 「……は?」■b■ 「……ゴラ?」■b■ 耳栓を貫通して届いた妙な鳴き声に思考を巡らせたのも束の間、ソイツは次のモーションに移っていた。■b■ ■b■ 「ゴラ、ゴラ……ゴ」■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ 「ゴラァアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」■b■ 「……なッ!? 巨大化した!?」■b■ ■b■ 「おいおいおい、なんだアレ」 「逃げろ!!」 「どいつだよヘマしたの!?」 「キャアアアアア」■b■ 涙目で喚き散らすマンドラゴラはその大きな手足を、逃げ惑う人々に向け、鞭のように振るい始めた。他の個体と比べて腹回りの肉付きが良い、さながらメタボ大根だ。しかし、アパートならば二階建てに相当するであろう巨体は俊敏に、そして、強烈な一撃を放つ。■b■ ■b■ 「だが誰も当たっていない、もしかしてノーコン!? ……いや、それなら良かった」■b■ 机は弾け飛び地面は陥没し酷い有り様だったが、幸い攻撃を受けた生徒はいないようだった。回避し続ければ直に教師たちがなんとかしてくれるはずだ。良かった。■b■ ■b■ ■b■ 「……違う。そもそもだ」■b■ ■b■ この事態の原因は? あの暴れ回るマンドラゴラは僕が寝かしつけるはずだった。そもそも、観察した時に気づけた話じゃないか。周囲を危険な状況に晒さなくて済んだはずだ。その僕は何をしている? 立ち竦むばかりで動けない腰抜け。冷静になったつもりでいた間抜け野郎。■b■ ■b■ ■b■ ■b■ 「……もしかしなくても僕は、失敗したの………………か?」■b■ 「リーフ君っそこで止まったら!?!?」■b■ ■b■ ■b■ ■b■ ■b■ 制止の声が聴こえた瞬間、目の前が真っ暗になった。